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緊急対論/亡国の霞が関を撃つ!
「耳元ささやき戦法」から「スケジュールマジック」まで

脱藩官僚(江田憲司・代議士)VS 埋蔵金ハンター(高橋洋一・東洋大学教授)
週刊ポスト(7/25号) 掲載記事 

「政治家を転がす役人テクをバラす」
―― 「役人の出世は“褒め合いサークル”で決まる。“あいつは凄い”といい合う」(江田氏)
    「ペーパーに『に』『等』『的』の一文字を入れるだけで、改革は骨抜きにできる」(高橋氏)


 通称、「脱藩官僚の会」――。
 中央省庁の官僚は、退官後も役所に忠誠を誓うかわりに、生涯天下り先を世話してもらえる。そうした“終身雇用”のしがらみを絶ち、あえて古巣の霞が関に弓を引いた元キャリア官僚たちの政策集団だ(正式名称は「官僚国家日本を変える元官僚の会」)。中でも、大蔵省と通産省という「一流官庁」の中枢にいた2人が、内部にいたからこそ知る、役人たちの“手練手管”をつまびらかにした。

 「官邸で、各省庁幹部が役所の組織防衛のために総理に訴える姿を見て、こうはなりたくないと絶望した」
 そう語るのは「脱藩官僚の会」代表の江田憲司・代議士(無所属)。通産官僚から橋本龍太郎元首相の政務秘書官に抜擢され、全役所を敵に回して中央省庁再編を実現した人物だ。
 一方の高橋洋一・東洋大学教授は、大蔵省(現・財務省)出身。小泉・安倍両内閣では竹中平蔵金融相の補佐官や内閣参事官として、郵政民営化や公務員制度改革の立案にあたった。財務省が隠してきた50兆円もの余剰金があることを指摘したことから、「埋蔵金ハンター」とも呼ばれる。 高橋氏の「脱藩の弁」だ。
 「私は理系(東大理学部数学科卒)だから、理論的に間違っていることは自分自身を誤魔化せない。役所では、長いものに巻かれることができなかった」
 首相官邸の内部で、官僚社会の表も裏も見てきた2人が、役人たちの税金無駄遣いから、改革つぶし、政治家籠絡のテクニックまでぶちまけた。

◆      ◆      ◆

――― 居酒屋タクシー問題では金券や現金まで受け取っていた。あまりにセコイ。官僚のモラルはどうなってしまったのか。
江田 「小人閑居して不善をなす」という言葉があるけど、かつての日本は「政治は三流でも官僚は一流」といわれ、官僚には国を動かしているのは自分達だという矜持があった。それが10年前の”ノーパンしゃぶしゃぶ”の官官接待事件以来、自業自得なんだけれども、国民の目が厳しくなって、官僚の志も低くなり、誇りが持てなくなっている。政治家への対応や雑務ばかりで仕事の質も落ちてきた。それで不善をなしているように思える。

 私は、わざと役人にとって影響が比較的小さい居酒屋タクシー問題を表面化させ、その程度でお茶を濁すための“高等戦術”かとも思った。

――― どういうことか。
 与党は無駄遣い撲滅プロジェクトチームを作って役所のタクシー代など2000億〜3000億円くらい削るつもりのようだが、削減額のケタが足りない。
 マッサージチェアとか、カラオケセットなど、ムダが多いのは国の特別会計。そのカネを独立行政法人や公益法人まで流し、天下りシステムを支える壮大な無駄遣いが潜んでいる。それを、居酒屋タクシー問題だけで済ませたいというのが役人の本音。

江田 ヤクザの世界じゃないけど、霞が関には、大蔵一家、通産一家とかがあって、組織に忠誠さえ尽くしていれば、黒塗りの車と個室、美人かどうかはわからないけど秘書の3点セットつきで80歳まで天下り先を面倒みるという「一生安心システム」が今もある。そのシステムを維持するために、無駄な補助金をつけ、給料分をもぐりこませる。

 国民も変だと思っているはず。

江田 国民が居酒屋タクシー問題に腹を立てているのは、こんな意識の官僚だから、もっと大きな無駄遣いをしているはずだと直感的に見抜いているからです。
 そこにメスを入れず、タクシーの利用停止で無駄撲滅とは笑わせる。

◆      ◆      ◆

「総理主導」は実は「官邸主導」
――― 自民党はこれまで何度も行革に取り組んで失敗してきた。
江田 行革がテーマになると、財務省にも経産省にも裏部隊ができる。裏部隊の役割は政界やメディアへの根回し。多くの政治家が、気づかないうちに官僚の掌で踊らされている。

――― 政治家を騙すテクニックがある?
江田 某省の幹部が、「与党大物の政策通の政治家ほど騙すのは簡単だ」といっていた。どうするのかと聞いたら、与党の会議などの直前に、「あなただけにいいますが、実はこうなんです」と耳元でささやく。情報を与えるわけです。すると政治家は嬉々として、会議で自分の意見として話す。大物の政策通だから、いろんな会合で喋る。

 本当は「あなただけ」の秘密の情報でもなんでもないんだけど、そうやって役所に都合のいい政策を流し、既成事実化していく。政治家は情報を持っていないから、“知らなかっただろう”と他の議員に自慢できる。大物心理をくすぐる、ささやき戦法。

江田 官僚というのは正面攻撃を仕掛けないんです。見えない落とし穴を掘る。 郵政民営化の時に高橋さんが指摘した「完全民営化」と「完全に民営化」の違いなんかは政治家にはわからない。「言葉を加えて骨を抜く」作戦だ。

 「完全民営化」は行政用語だから、根拠法の廃止、政府保有株の全株売却が行なわれる。ところが、「完全に民営化」という一般的な表現に変えるだけで、全部骨抜きにして、役所の人事権が維持できる。郵政民営化の時、役所はペーパーに「に」を入れるだけで民営化を骨抜きにしようとしたから、竹中さんを通じて小泉総理に伝えて「に」を抜かせた。他にも、「的」や「等」を入れ、言葉をあいまいにする。それだけで改革は進まない。

江田 私の経験でいえば、橋本内閣の中央省庁再編で内閣府に予算編成の基本方針を定める「経済財政諮問会議」の設置を決める時、事務局作成の文案ではいつも「財政」が抜けていた。財務省は官邸に予算編成権を握られたくないからです。
 総理秘書官だった私が何度、「財政という言葉を入れろ」と突き返しても、「財政というのは、広義の経済ですから、経済諮問会議でいい」という理屈で抵抗した。それでも強引に入れさせたら、財務省は森内閣でいざ省庁再編が実施される時、今度は森さんに「ささやき戦法」をとった。

――― 何をささやいたのか。
江田 「予算は民間人がメンバーになっている経済財政諮問会議ではなく、総理主導でやるべきです」とささやいて、総理直属の「財政首脳会議」設置を進言した。森さんも、「私は予算を政治主導で決めたい」と自慢げにぶち上げた。

 2つの諮問会議を作るのはよくやる手だよ。財務省は会議のメンバーに学者や専門家がいなければ政治家は簡単に騙せると考えた。予算編成の主導権を取り戻そうとしたわけだ。

――― 役人側から「政治主導」を持ちかける?
江田 それは実は官僚主導なんだけどね。

 本当は騙されちゃいけないんだけど、「総理主導」とか、「政治主導」という言葉に政治家はコロッとやられる。

江田 さすがにその時は意図が見透かされて財務省の策略は失敗したけど、私も高橋さんも、総理の側にいて、そういうやり方がよくわかる。「ここが落とし穴ですよ」といってあげる人がいないと、政策通の政治家でさえ罠に落ちるんです。

局長室の「個別のご相談」
 スケジュールのマジックもある。財務省は経済財政諮問会議ができてからも、いろんな妨害をした。
 税収の見積もりに関する経済見通しを12月の予算編成直前まで出してこないわけ。6月くらいから会議をしても、税収がわからないと予算の基本方針の決めようがない。そうやって議論させないようにする。
 公務員改革でも、必要な法律を作るのに、「内閣法制局の審査に時間がかかる」と引き延ばして、わざと国会の審議時間が足りずにギリギリ廃案になるようなスケジュールを組む。

――― 福田首相が打ち出した道路特定財源の一般財源化では、国交省が「交通量予測の最新データは10月まで出ない」と道路基本計画の見直しを先送りしている。
 わざとなんです。官僚のテクニックとして、政策決定、法案作成などの事務的スケジュールをすべて理解しておく。日程をちょっと遅らせたりするだけで役所に不利な政策の半分は潰せますね。

江田 舞台裏を知っているわれわれからいわせると、そんな資料すぐ作れるだろう、引き延ばしてるなとピンとくるが、ほとんどの政治家にはそこがわからない。

――― 政治家を籠絡する最大の決め手は、なんといっても予算バラマキではないか。
 どの政治家の地元に道路や橋を架けてやるかという“箇所付け”ですね。昔からの常套手段。局長室に政治家を招いて陳情を聞くから、「局長室の個別のご相談」と呼んでいる。

江田 各省庁は政治家の「序列リスト」を作っていて、このクラスの議員なら地元にいくらくらい予算をつけてやる、こいつは陣笠だから、このくらいでいいとか、全部割り振る。そうやってアメをしゃぶらせる。対応する役人のランクも、大臣経験のある大物なら局長、部会長は課長、その下なら課長補佐と差をつけている。
 しかも、政治家ごとに身体検査して、遠い親戚にあたるとか、出身が同じとか、いわば”身内”の官僚を探して担当させる。
 私がいた経産省も同じです。族議員を養成する仕組みだ。

 だから誰が大臣や総理になっても、気心の知れた秘書官を送り出せるシステムになっている。秘書官になる時に「お初にお目にかかります」なんてのはないんですよ。

“裏切り者”への見せしめ人事
――― 政治家を籠絡し、官僚は何を守りたいのか。
江田 諸悪の根源は、さっきいった一生安心システム。20〜30代の官僚はまだ志は高い。問題は40代の管理職になる頃から。徐々に、上から陰に陽に、新しい政策をやるなら新しい団体を作り専務理事のポスト(天下り先)を確保しろ、補助金に給料分を潜り込ませろといわれる。指定職といわれる審議官以上になると、自分の天下りの問題になるから必死だ。

 私は、政策金融の制度を作る時に、「同じことなら、民間金融機関に補助金を出してやらせればコストが安い」といったら上からすごく怒られた。
 要するに、「新しい公的機関を作って補助金をつけて天下りポストを増やせ」ということです。

――― 官僚は無駄を省く方法をよくわかっている。
 もちろん。だけどそれをいっちゃうと自分が危うくなる。

江田 それをいわないのが忠誠度です。私は中央省庁再編で各省の次官、官房長が橋本総理に説明に来て、なりふりかまわず組織防衛、改革反対するのを総理の隣で目の当たりにした。こんな人物が出世するのかと思うと気持ちが離れた。

――― 組織への忠誠度が役人の出世を決める?
 それは”褒め合い出世システム”がある。官僚の人事は評価の基準が無いでしょう。だから、互いに、「通産の誰は大局観があって仕事ができる」とか、「大蔵の○○さんは腹が据わっている」とか、若い頃からお互いに褒め合って偉くなる。

江田 おかしいと思いませんか? 前財務事務次官なんて、秘書課の補佐の時から「将来の次官」といわれていた。同じく外務省の前事務次官も、約20年前、私がハーバードに留学中、米国の教授までが「彼は将来、次官になる」っていうの。係長、課長、局長と仕事の内容が違うのに、なんでそんな頃から評価が決まるのか。

 各省の同期の中で2〜3人が選別され、これが上下に連なるインナーグループを形成し、その中で出世の順番が決められる。

江田 省内でも、そうした狭い選別をされた人が“褒め合いサークル”で“あいつは凄い”といい合いながら、「一生安心システム」を守っていく。キャリアでも、そうしたグループに入れない者は、人事は公平に行なわれているものだと思っている。

 そんなインナーサークルに入れば、どこかおかしくなる。出世、出世で普通の判断ができなくなるよ。その頂点にいるのが官僚OBたち。私は政府系金融機関の統合で彼らのクビを切ったから、大変でした。

――― 最後は露骨に研究機関に飛ばされた。
 公務員は「研究官」なのに、私の辞令には「客員研究員」になっていた。まだ辞めてないのに、公務員扱いさえされなかった。私は辞めるつもりだったからいいが、当時の細川興一次官は、天下りポストの削減を止めることができなかった見せしめで、まともなところに天下りできない。改革のためにいいことをしたのにね。

◆      ◆      ◆

 江田、高橋両氏をはじめ“脱藩官僚”の霞が関への攻撃が本格的に始まるのはこれからだ。その時に、官僚たちはどんな抵抗をしてくるのか――。
 
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