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需要不足と供給過剰を解消する構造改革を
日経大予測2003年版(日経新聞社刊)

 小泉首相が「構造改革なくして景気回復なし」と言うからには「景気に効く改革」でなければならない。確かに改革には時間がかかるにしても、そうなら尚更、これまでに「改革の種」が仕込まれていなければならない。首相は口を開けば「改革は着実に進んでいる」としか言わないが、答えはNOである。簡単に言えば、主戦場を間違えているのだ。

 今の経済混迷の主要因には、需要不足と供給過剰がある。また、将来不安で国民が消費にカネを回さないという背景もある。この根本原因を除去しない限り、経済の再生はない。

 その治療薬が、本来の「構造改革」であるはずだ。すなわち、大胆な規制改革や税制改革で民間活力を引き出す、財政規律は守っても予算の中味の抜本的組替えで将来有望な分野に重点投資する、そうすることで新しい需要や産業を起こしていくのだ。更には、不良債権の実質処理(オフバランス)で、同時に企業の過当競争体質(供給過剰)も是正していく、医療や年金制度を持続可能なものにし、財政赤字解消への道筋をつけていくことで、国民の将来不安を除去する、そういった大手術が必要になるのだ。

 「規制改革」は、財政余力がない中で改革の最も重要な柱となるものだ。政府は、教育、福祉等重点7分野での規制改革で産業を作り出し、今後5年間で新たに530万人の雇用を生み出すと約束したが、昨年末の総合規制改革会議報告は「各省調整済みの小さな玉の羅列」で終わった。今求められているのは、携帯電話の「端末売切り制」で新たに10兆円の需要が生まれたように、インパクトのある玉を3つか4つ出すことだ。今年7月には同会議が、病院や学校、農業等への株式会社方式の導入等を提言したが、残念ながら各省とは未調整の両論併記で終わっている。「規制改革特区」構想とあわせ、最終的な歩留まりがどの程度になるかは、ひとえに首相のリーダーシップにかかっている。

 税制改革でも、経済財政諮問会議、政府税調、自民党税調の三頭立ての馬車が迷走している。特に、「歳出の無駄を省いて減税を」(改革還元型減税)とする諮問会議と、「歳出削減分は国債の償還に充てるべきで、減税なら増税だ」(増減税一体)とする財務省が対立。結果的に「1兆円を超える先行減税」の方針は出たものの、財務省の振り付けで、多年度にわたる税収中立(増減税イーブン)を担保する「税制改革一括法案」という枠がはめられた。今後は、首相の裁断で、研究開発、IT等の政策減税にとどまらず、財務省が反対する将来の産業競争力を見据えた法人税の実効税率引下げまで踏み込むべきだろう。

 予算の重点配分では、中国や東南アジアとの競争に晒され、今後分業を余儀なくされる貿易財分野ではなく、非貿易財分野(医療・福祉、教育、環境)において新しい産業を起こしていくことを考えるべきだ。例えば、都会を中心に、保育園や老人ホーム、ゴミ処理施設等は不足しているのだから、既述の規制緩和とともに予算を重点投資する。また、既存事業でも、より乗数効果の高いもの(設備機器)にシフトすることで景気の下支え効果も期待できる。この点、確かに小泉政権は、公共事業やODA、特殊法人への拠出金等の削減は行ったが、首相裁量の「構造改革特別枠」に看板のかけ替えで旧来の公共事業がなだれ込んだように、財政の中味の改革は極めて中途半端なものに終わっている。

 不良債権処理では、早期かつ実質処理で、カネや土地を実体経済の世界で回らせ、かつ非効率企業の淘汰を促すべきだ。企業の将来利益、キャッシュフローから成長性、信用力を判断し、リスクをとって貸し出すという当たり前の金融機能を回復していくことはもちろん、不良債権の下で塩漬けになっている土地を市場に放出し、底値を打たせることが肝心だ。土地とカネが回り始めると経済は回復軌道に乗っていく。ただ、これには倒産や失業という大変な痛みが伴う。単なるセーフティーネット(失業給付等)の構築だけでなく、昔、素材産業やエネルギー多消費産業に適用したように、不良債権先業種の構造転換の促進(労働や設備等資源の有望分野へのシフト)も含めたトータルプランの策定が必要だ。

 国民の貯蓄意欲を高め、消費を減退させる要因となっている将来不安の除去、すなわち医療や年金制度の改革も、国民負担増だけに止まらず、「薬漬け、検査漬け」と言われる診療報酬体系の見直しや基礎年金部分への財源手当等の本体、中味にまで踏み込むべきだ。

 「構造改革」は、もちろん以上に止まらない。「官から民へ」、「国から地方へ」を基軸に、全ての社会経済システムを洗い直すことが必要だ。ただ、その際、決して忘れてはならないのが「改革の大胆さとスピード」だ。経済が本当に深刻になる前に、大胆な改革をスピーディに成し遂げてこそ、「改革なくして成長なし」は真理となる。

 

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