国民一人一人の夢を実現できる社会を実現したい

江田けんじ 衆議院議員 神奈川8区選出(横浜市青葉区・緑区・都筑区)

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「SIGHT」2008 SPRING号にインタビュー記事掲載

2008年3月22日 メディア情報 | 新聞・雑誌 tag: , ,

福田政権の「メッセージなき予算案」のここが駄目!を検証する

「SIGHT」2008 SPRING号


予算はこう読む'08 予算でわかる「日本売りが止まらない」

江田 今回の予算案は福田政権で初めての予算編成ですが、見事にメッセージがないですね。政策のベクトルがあっちこっち向いていて、1本背骨が通ってない。たしかに新規の国債発行額は減らしました、公共事業費もODA(政府開発援助)も減らしました。それは良いんだけれど、肝心のプライマリー・バランス、基礎的財政収支の方は5年ぶりに赤字幅が拡大したんですね。7516億円悪化して5.2兆円のマイナスです。2011年までにプライマリーバランスを黒字化するという大きな骨太の方針、政府がマクロ目標として掲げている問題があるのに。逆に赤字幅が拡大して、これが改革を完全に止めてしまったというメッセージとなり海外にも発信してしまっている。
 外国人投資家は注目していますよ。去年、安倍さんが参院選で惨敗して、組閣後に政権を放り出し、福田政権ができるあたりから日本売りが目立って増えてきました。東京証券市場の6割ぐらいを占める外国人投資家がどんどん日本から資金を引き揚げている。それが今の株の下落、アメリカ以上の株の下落に繋がってしまった。日本だけが一人負けをしているという状況です。外国人投資家はまさにこの福田政権の予算から読み取れる「改革の停滞」、いや、「改革の逆行」に反応しているわけですよ。誰だって将来的に収益を得るために投資するわけです。どうやら日本はまた昔の利権政治・土建政治に戻ってしまうんじゃないかという懸念が投資を控えさせてしまっています。
 予算の中味をみれば歴然です。まるで田中角栄時代の政治に舞い戻ったかのようです。整備新幹線では、国・地方合わせて史上最大の総事業費を確保し、道路でも10年間で59兆円が堂々と見積もられています。しかも暫定税率を10年間維持してね。田中角栄さんは『日本列島改造論』で、要するに新幹線と高速道路で日本を成長させるんだ、国土の均衡ある発展を図るんだと言ったわけですが、その何十年前と同じ発想と手法で予算が組まれているわけです。ですから、何が「生活者が、消費者が主役」ですか。「消費者庁」を作ることじゃないでしょう、と言いたい。

――― (笑) 福田さんは消費者庁をかなり本気で考えているようなんですけれど。

江田 お父さん(福田赳夫・元首相)がエネルギー省構想っていうのをブチ挙げてつぶされたことがあったんですね。それと同じように、組織いじりでごまかそうとしている。国民が望んでるのはそんなことじゃなくて、もっと我々の生活に直結する、年金や医療、介護、子育てといった分野で、100年安心のシステムを組んで欲しいということでしょう。にもかかわらず先の臨時国会はテロ特措法一点張り、今回も「ガソリン国会」一点張りです。政治が全く国民の感覚とずれているんですね。

――― 民主党も自民党のペースにはめられています。

江田 自民も民主もレベルの低い争いです。党利党略、政争に明け暮れて。だからこれだけ福田政権が隙を見せているのに、全く追い込めない。


道路・新幹線 「生活」より「道路」!一気に交代する行革の台頭

――― では具体的に予算を見ていきたいのですが、一番問題があると考えられるのはどの項目でしょうか。

江田 やはり「ばらまき」に戻ったところですね。その一番の象徴が道路です。あれだけ道路公団改革だ、無駄な道路は造りませんって、さんざん小泉政権で猪瀬直樹さんも参加してがんばったくせに一体どうなってしまったのか。石原伸晃・国土交通大臣は当時記者会見で「9342キロ全部造るわけがありません。私が、大臣が言ってるんだから正しいんです」と力んでみせましたけど、その当時から私は結局は骨抜きになると言っていた。そのとおりになりましたね。9342キロは何事もなかったかのように全部造ったうえに、今回10年間暫定税率を維持して59兆円のお金をかけて1万4千キロの道路を造るわけですよ。中期計画の片隅に1万4千キロと書かれているということは、霞ヶ関の常識では将来的には全部造りますという宣言なんですね。ですから、本当にあの大騒ぎは一体何だったのかということです。しかも今回、最初に国土交通省が出してきたのは65兆円という数字。それが、猿芝居ですが数日のうちに59兆円、6兆円も減った。いかに額を膨らましてるかということですよ。59兆円なんて、10年だから1年当たり5.9兆円でしょ。今の道路特定財源は全部維持しても5.6兆。要は道路特定財源以上の道路が必要だっていうことなんですよ。それに特定財源の一般財源化にしても、安倍政権で出された方針、これ自体がすでに骨抜きですが、道路に使って余った分は一般財源化するという方針に沿って、まがりなりにも今回千数百億円を一般財源化したんですが、この調子ではそれも将来どうなるかわかりませんね。だから、暫定税率もへったくれもないんです。特定財源を一般財源化するとか、暫定税率をなくしたら地方は困るという以前の問題として、こんなまだ、田中角栄政治みたいなことが今の現代のこの世の中で平気で行なわれているということに唖然とするわけですよね。もう生活優先もへったくれもあったもんじゃない。

――― 小泉劇場からの大騒ぎの改革路線なんて、今まで何だったんだろうと。メディアでも猪瀬直樹さんなんかの活躍が大きく扱われていたので、印象としては勝利感のようなものが植え付けられていました。江田さんは当初から「道路公団改革は骨抜きだ」と見抜かれていたんですけれども、結局は官僚の思うつぼということなんでしょうか?

江田 まあ猪瀬さんは民間人でよくがんばったと思いますよ。私は評価しています。しかし、猪瀬さん1人でどうこうできるような話じゃないんですよ。結局道路公団改革っていうのは、道路建設の可否は「道路会社ではなくて、最終的には国土交通省の審議会が判断する」という条項を法律に入れちゃった時点でアウトだった。これは霞ヶ関の常識では「国土交通省が最後に族議員の意見を聞いて決めます」ということを意味するわけで、その通りのことが今起こってるんですね。霞ヶ関の官僚とさんざん中央省庁再編とかいろんなところで戦ってきた私から見れば、猪瀬さんがいくら「やった、やった」と言っても、そんなものは官僚に丸め込まれたとしか読めないんですよ。彼は当時、9342㎞を全部建設するかのような批判は客観的事実と違うと抗弁していましたが、結局、全部造ることになりました。

――― これはもう、どうしようもないんでしょうか?

江田 そんなことはありません。総理大臣が「こんなものだめだ」と言えばすむことです。考えてもみてください。小泉政権時に「国の直轄方式」っていうのを認めたんですね。採算が合わなくても本当に必要な道路というのはある、それは私も認めます。それを国自らが造る、だから直轄方式を新たに制度として設けたこと自体はいいと。だけどそれを認めたのなら尚更、道路会社が整備する道路というのは、徹底的に採算だけで判断するべきだと。当たり前のことでしょう。にもかかわらず道路族の思惑にのって、道路会社が整備する分についても、会社の判断だけじゃなくて、最終的には国土交通省の審議会が判断すると決めた。結局、元の木阿弥、全部つくることになってしまったんですよ。

――― だから、何もなかったかのように二十年前の計画通りに道路が全部造られることになったんですね。

江田 当時、道路族のドンがほくそ笑む顔が何回もテレビに出てきたじゃないですか。それが象徴してるんですよ。その笑顔の意味が今わかったということです。おまけに、猪瀬さんが当時何て言ってましたか?「高速道路の料金は民営化して効率化すれば下がります。税金は一切投入せずに高速道路の料金を下げます」って。それが、今回1500億円の税金を使って高速道路の料金を下げるんですよ。そりゃ下がった方がいいに決まってますが、これも約束違反ですよ。結局、利権、族議員政治というのが見事に復活したと。それがこの道路予算案です。


農業・地方 前年比40倍!バラマキ農政復活

江田 今回、もうひとつの象徴的な事例は、農業の分野で補正予算が950億円計上されたことです。米の値下がり対策で、農家の収入の不足分を税金で補填してやろうと。この500億円を含む950億円の補正予算、これは明らかに民主党の農業ばらまき案を意識している。民主党の「農家個別所得補償案」への対抗です。せっかく自民党も古い農林省時代の農政を捨てて構造改革を目指し、やる気と志のある農業を育成していこうという政策に転換したのに残念ですね。製造業と比べて何十年も遅れてやっと、昔通産省がやったような構造調整というか産業の高度化みたいな流れが出てきたところだったんです。それがまたぞろ、民主党のばらまきに対抗して、自民党の農政も逆行しつつある。その象徴がこの補正予算950億円なんです。これ、前年は24億円しかなかったんですよ、前年比40倍!
 私が今一番懸念をしてるのは、こういった自民・民主の「ばらまき合戦」です。それがまた日本の借金財政を悪化させて、国際的な評価も下げる。このままでは本当に日本は没落していってしまいますよ。ローマ時代、商人国家・カルタゴが栄えてすぐ滅んだような、そういった歴史的な運命をたどる可能性を心配しています。

――― 農家支援は切実に必要とされているのに、なぜいつもばらまき一辺倒になってしまうのでしょうか。

江田 知恵がないんですよ。創意工夫がない。跡取りもいない、やる気もない、そんな農家を含めて全農家に小遣い銭を税金を使ってポンと渡す。こんなもので、どうして将来ある足腰の強い農業が実現できるのか、私には全くわからない。民主党の議員にいろんな機会で問いかけて、ようやく内実を訊きだしてみると、「これは小沢一郎さんと一部の議員だけで決めた話なんです」と。

――― よくわからないですね。

江田 我々も本音は反対なんです、と言われてもね。そうやって批判をしているだけじゃダメですよ。地域振興にばらまきじゃない具体的な政策を提示できないんですね、自民党も民主党も。だから地域のみなさんが非常に不安を感じてしまう。これからは地域のシーズ(種)とマーケットのニーズというものを、しっかりとマッチングした「マーケティング型の農業」というものに転換をしていかなければならない。私がよく例にあげるのは、徳島県の上勝町の「つまものビジネス」という、葉っぱビジネス。ここは、料亭なんかでお刺身の横に添えてある葉っぱで町を復興させたんです。上勝町は中山間地域(註:平野の外縁部。山の狭間でまとまった耕地が少ない不便な地帯)にあり、平均年齢が70歳の限界集落です。ひとりの問題意識の高いキーパーソンがITを駆使して葉っぱマーケティングをちゃんとして、今や70歳のおばあちゃんが年収一千万円もあるんですから。

――― すごいですね。

江田 中山間地域の限界集落で、それだけのことができてるんです。ほかにも島根県の石見地区は、桑の葉が血糖値を下げるっていうところから、昔の桑畑を復活させて桑茶というものを作った。それが健康ブームに乗ってどんどん売れて。また一大製造拠点、販売拠点になっています。さらに同じ地区で、構造改革特区(農業特区)を利用して、建設会社が農業に参入して、それで有機栽培をして産直ですね。産地から近い広島市街地に直販で売って、これも結構利益を出していると。建設会社といえば農業と並ぶ疲弊産業です。地方の建設会社には、農閑期の収入のために農家の次男、三男が働いてる。最近は長男の人まで働いていて。そういう人たちは当然、農業のノウハウ持ってるんですね。おまけに建設会社だから機械もあるしIT技術もある。ですから、建設会社が株式会社方式で農業に参入することで成功した。やはりそういう成功事例をちゃんと見なきゃいけない。もう一つ農業政策で問題なのは、農協だと思いますよ。農協は官僚組織化してしまっていて、本来求められている「農協」としての役割を果たしていない。農協が壁になってマーケットと農家が遮断されてしまう。全部が全部ではありませんが、大半は単なる金融機関みたいなものになりはてている。だから必要なのは農協の抜本改革とも言えます。
 それから地域興しと言えば、観光も今注目されています。どうやって地域に人を呼び集めるか。滋賀県の長浜市は、黒壁の建物がたくさん残っているんですが、北国街道と黒壁の町を売りに観光資源をアピールした。そうしたら京阪神から日帰りの客がいっぱい来て、シャッター通りと言われた商店街が全部復活して、今も年間200万人観光客が来て栄えてるという事例もある。旅行者の宿泊日数とかの統計を調べてみると、あれだけの観光資源がある京都だってベスト10に入ってないんです。奈良なんて最下位に近い。あぐらをかいているんですね。一方、最近のベスト3ぐらいに入っているのは千葉県。千葉県は京都や奈良に匹敵する規模の観光資源はないんだけれども、霞ヶ浦の水郷とか、伝統文化をJR6社とタイアップして全国キャンペーンをした結果、どんどん千葉へ宿泊客を招き入れることができた。
 現金ばらまかなきゃダメだっていう発想はカンフル剤であって、カンフル剤が途切れたらもう途端にそれで終わっちゃう。そんなことを何回繰り返すんですか。創意工夫をした成功事例があるんなら、ちゃんと見習って、しっかりと自分たちの強みを生かしてやらなきゃ。昔、「民活」が盛んな頃は、町おこしにお金もらってみんな遊園地造りました。第三セクターでね。そんな遊園地は今ではほとんど廃業してますよ。そうじゃなくてその地域の歴史的、伝統的な強みというものを開花させていく。そのためには、上勝町のことは上勝町に権限やお金を下ろさなきゃいけない。徹底した地方分権が求められます。小泉さんの三位一体改革は狙いはよかったんですが、地方交付税だけ大きくぶった切ったため地方の疲弊を促進した。中途半端だったんです。もっと徹底的に権限とお金を市町村レベルに下ろして、それで地域のニーズをどんどん吸い上げて、発展させていくということが必要なんです。

――― 限界集落での成功例も、全て点なんですよね。繋がる方向にそれを持って行くのが政治なんだと思います。

江田 そうです。だから、中央官僚が霞ヶ関から椅子にふんぞり返ってやるもんじゃないんです。中央政府の権限は外交安全保障とマクロ経済、全体的な財政調整ぐらいに止めて、あとはもう道州制にしてね。市町村レベルに全部基本的なことはまかせて、地域間の連携や広域行政的なことは道州にやらせるというのが一番だと思いますね。


ばらまき政治の効果という幻想

――― 今回のばらまき予算は、選挙で自民が厳しい負け方をした影響が出ていると言われています。バラマキ予算で票が動くという目論見、これは結局当たってしまうのでしょうか?

江田 前回の参院選で勝ったのは決して民主党が農業ばらまきをして、小沢一郎代表が地方行脚したからじゃないですよ。そこの認識が間違っている。民主党の大勝ははまさに自民党の敵失であって、それは年金問題しかり、絆創膏大臣が出てきた「政治とカネ」の問題しかり、あれで全国的に雪崩を打って「自民党はダメだ」と判断されたんですよ。なのに自民党の中の農業族や道路族みたいな古い体質を持つ政治家が、「小沢の地方行脚で負けたんだから自民党も何とかしないとダメだ」っていう、その材料に使われしまっている。それにメディアが一緒に乗っているという構図です。自民党がこうやってまたばらまきに戻ってくると都市部の有権者はみんなそっぽを向きますよ。結局、小泉改革とは何だったんだということになります。要するに小泉さんで自民党は変わったんだと言われたけどそうじゃなかった。私はずっと変わってないと言ってきた。熱に浮かされて日本中お祭り騒ぎをして、ふっと我にかえって夢から覚めてみれば、賞味期限切れの相変わらずの自民党があったということでしかありませんよ。

――― 自民党を壊したわけではないんですね。

江田 壊されてないですよ。小泉さんが壊したのはせいぜい経世会。清和会は隆々として、族議員はずっと自民党の中で息をひそめていたんです。小泉台風という嵐が通り過ぎるのを首をすくめて穴蔵に籠もってじっとチャンスを狙っていた。それが福田さんになった途端にドーンと出てきたということです。

――― 予算案の作り手は、議員と官僚が中心ですが、このあたりのパワーバランスはどうなんでしょうか。

江田 それは圧倒的に族議員が強いですよ。最終的に彼らを抑えられるのは総理大臣でしかない。各省大臣なんてもう、族議員のボスからすれば子供みたいなもんですから。年末の独立行政法人改革における渡辺喜美行革相が象徴です。大臣は偉いし力もある、なんてとんでもありません。

――― そうなんですか?

江田 本当です。力関係がはっきりしていてもう震え上がるわけ、大臣が。だからこそ僕は言ってるんだけれども、この今の日本の政治の現状の下では総理大臣が決断しないと何も改革できないんですよ。しかも総理大臣が国民のために死ぬ覚悟でやる場合に限ります。だから福田さんには申し訳ないけれども、そういう問題意識なく総理になられた方だから、結局こういうことになっちゃう。

――― 確かにベルトコンベアに乗って流れてきたような予算ですよね。

江田 そうそう。だから予算は、放っておけばこうなるんですよ。要は財務省と各省庁と族議員が入り乱れて、それで自民党の政調会とかが調整して、まとまったのが今の予算案ですよ。どこにも首相がリーダーシップを発揮した形跡がない。

――― 族議員の方々と財務省や各省庁の官僚は仲良くやっているんですか。

江田 各省の官僚と族議員は持ちつ持たれつで仲が良いですね。財務省は財政規律の観点から突っ張るけれど、最終的には取り引きに応じる。財務省だって官僚だから政治家に恩を売りたい。天下り先も確保したい。財務官僚によく言われるんだけど「江田さん、そんなこと言っても我々が弱いからどんどん押し込まれて、これだけ財政赤字、借金が積み上がった」なんてね。とんでもない、それは表向きの理由ですよ。僕はそんなことにだまされません。要はあんたがたは最終的には族議員と取り引きして、そのかわり財務省の省益というか、組織防衛を図ってきたんでしょと。その結果がこの借金財政なんじゃないですかと。
 今の自民党にしろ、民主党にしろ、道路改革派もいれば道路維持派もいる。典型的じゃないですか、道路の建設期成同盟会なんて所にはおびただしい数の自民・民主両党の議員が名を連ねて「エイエイオー」って鉢巻きして気勢をあげている。改革派と反対派とが自民・民主両党に混在しているわけです。こうした今の政党政治の中で前に進もうと思ったって、頭と胴体、手足がバラバラに動いてる動物と同じですよ。一歩も前に進めない。衆参のねじれが問題だなんて言っていますが、そうじゃなくて、政党内、あるいは政党間のねじれの方が問題なんです。頭が右に行こうとしても、手足が左に行こうとして全然前に進めない。それを強引に頭だけの力でグイグイ引っ張ったのが、あの小泉改革ですよ。しかしその小泉さんですらね、あれだけ郵政民営化をやるやると言った人を選んでおきながら、足下の自民党から反対者が続出して法律が通らない。で、700億円もの税金をかけて解散総選挙を打たないと1本の法律も通らない。これはもう政党政治の破綻以外の何者でもないわけです。この破綻した政党政治を前提にして国を改革していこう、変えようというのには限界がある。だからこそ私は政界再編を訴えてきたわけです。


年金・医療・教育 具体策、皆無。放置される社会福祉整備
どうなる? 国民の生活

――― 社会保障関連予算は、「ねんきん特別便」などの情報収集・整備に終始し、社会保障費に回されるお金であるとか、昨年安倍さんががんばって言っていた再チャレンジ関連、失業者救済の雇用対策はその影を潜めつつありますね。

江田 年金も記録問題ばっかりになっちゃって、確かに記録漏れの人を救済するっていうのは大事なんだけれども、しかし多くの国民は100年安心の年金制度を早く確立して欲しいと思っている。特にサラリーマンの人。サラリーマンの人は厚生年金だから、大部分の人は記録漏れがないんですよ。それよりも数年前の年金改革は本当に100年安心かと。全くそうじゃなかったということが露呈してきたわけだから、基礎年金を税方式にしていかないと、もう保険料方式自体が破綻してるんですからね。昔10人の若者で1人のお年寄りを支えていたころは、その若者がこつこつ保険料を納めてお年寄りを支えていくことも成り立ったけれども、今だいたい4人の若者で1人を支えている。20年後にはこれが2人で1人になる。これが世界一の少子高齢社会の衝撃なんですね。だから基礎年金部分を、最低保障年金と言ってもいいんだけれども、税方式に変えていくということを可及的速やかにやらないといけません。年金未納も4割以上もある。やはり100年安心の年金制度の構築にもっと今政治の力を集中していかなければならないと思います。
 医療問題だって、今回8年ぶりに診療報酬を0.38パーセント上げたんですが、そういう上げた下げたの議論じゃなくて、診療報酬体系を抜本的に改革して、医者の腕前や繁閑に応じてインセンティブを与えられる体系にする。医師不足、医師の偏在が言われて小児科医や産科医が足りないんだったらそこに手当をしていく。救急のたらい回しが問題になっているのは病院経営が非常に苦しい、勤務医の過剰労働も大きいということがあるわけだから待遇改善をしていく。そういう本当の意味での医療制度改革について真正面から取り組んでいかないと。そのためには無駄も徹底的に省く。医療機械にしたってバカ高い。カテーテルや心臓ペースメーカーっていうのはアメリカに比べて4倍も5倍もの値段で買わされてたり、今ジェネリック医薬品と言われるように、後発医薬品を使えば薬代だって10分の1になる。いろんな無駄がまだあるんですよ。
 介護にしたって、今一番の問題はどんどん介護士が辞めていること。過重な労働を強いられてて、月給が10万円15万円しかないという世界です。将来、誰もが介護を受けなければいけない中で、老後が心配という大きな要因になっていますよ。
 子育てだって、2人目が安心して産めない、とてもじゃないけれど養っていけませんとみんな悲鳴を上げています。教育費の問題もあるし、住居の問題もあるしね。そういった子育て支援だって国政の中心にこない。少子高齢化が問題と言っても、高齢化はお年寄りが長生きするということで素晴らしいことなんですね。だから問題は少子化。これが最重要課題のはずです。フランスが取ってるような、ちょっとやり過ぎと思えるぐらいの子育て支援策をやらないと少子化の傾向は反転しない。大体、少子化担当大臣って何やってるの? 皆さん名前さえ知らないでしょう。ただ単に「私は大臣です」っていうだけ。せっかくの特命大臣なんだから、総理大臣から「うるさいから辞めろ」と言われるぐらい、暴れまくらなきゃいけないでしょ。前任者もそうだったけど大臣の存在自体が税金の無駄遣いになっている。

――― 教育予算は、教員の増員というわかりやすい決着になりました。

江田 これは人を増やしているだけですからね。だいたい少子化なんだから、人を増やすよりも教員の質を上げていかないと。そのためには待遇改善も必要だし、教師が煩瑣な事務に追われて、ろくろく放課後の課外活動にも手が回らない状況も変えなければならない。日本の場合、3月に卒業してすぐ4月に始業、カリキュラムを教師たちが自分で考えて提示できるような仕組みに全くなってない。アメリカなんか6月に終わって9月に始まるまでの3カ月間で、教師が徹底的に議論をして自分でカリキュラムを作って担任する。とにかく教育は現場が大事、そのポイントは教員とカリキュラムですよ。


「生活」予算は蚊帳の外

――― ゆとり教育の混乱を経て、今の教育現場の疲弊は社会問題化しています。救急車のたらいまわしや介護疲労の果ての自殺まで起きてしまう状況なのに、どうして予算ではこういった、生活に近い問題が黙殺されてしまうのでしょうか。

江田 政治家にとって目に見える千票にならないからですよ。生活回りのことを一生懸命やっても、その生活者が自分に票を入れてくれるかわからない。少子化対策なら、若い子育て世代の投票率が低いという事情もある。だから目に見える道路なんですよ。議員は道路を造りたい、新幹線を引きたい。それで俺がやったやったって言いたい。その見返りに組織票と献金を得たい。
 知事や市町村長も情けないですよ。ガソリン税の暫定税率延長をやめれば地方の道路予算に1兆6000億円穴があくって騒いでるけど、本当にその道路が必要かどうかを住民に訊くべきですよ。アクアラインのおかげで木更津が栄えると思ったら、木更津が今1番千葉県で元気がない。私の故郷の岡山だって、瀬戸大橋のふもとの児島という町が1番疲弊している。道路を造ったはいいが、車や人は素通りしていくだけ。運送会社や地域の住民は高速道路ができて10分20分早くなるよりも、ガソリンが25円下がった方がいいと思ってるんじゃないですか。ましてや日本経済が先行き不透明な時に、ガソリンを25円下げれば減税と同じなんだから、やるべきだという判断も当然ありでしょう。地方にいくほど車社会だからその効果も地方ほど裨益する。何か問題が出れば、その時また考えればいい、そういう発想が皆無なんですね。いつも何かやろうとすると問題点ばかり指摘する。だって十年で59兆円も確保してるブクブクのメタボリックですよ。だいたい地方の道路予算が10.6兆円、そのうちの1.6兆円ですから、たったの15%程度の無駄が本当にないんですかと。役所が出してきた試算をそのまま信じているメディア、知事、市町村長も問題です。特定財源は伏魔殿なんだから、こんな一方的な数字を前提に「いくら減ったから大変です」みたいな話をされてもとても信じられませんね。案の定、実は職員のレクリエーション器具を買っておりました、閑古鳥の鳴いている駐車場法人を作って天下りをしておりましたってボロが出てきてるでしょう。国土交通省の規格では1メートル12万円の道路が地方では6分の1、10分の1でできている所もある。都会で開かずの踏切問題を解決する、なんて言い出していますが、じゃあ、何でこれまで道路特定財源が毎年5兆6000億もあったのに200カ所も開かずの踏切があるのかと問いたい。予算があったって本当に住民のための道路なんかには使いませんよ。利権なんですから、この予算は。

――― そこまで強引に予算に執着するということは、それだけ票と直結しているからなんでしょうか。

江田 もちろんそうです。知事も市町村長も族議員も、土建業者ら一部のノイジーマイノリティーの意見を聞いてるだけ。こんなことをやっていたら必ずしっぺ返しをくらいますよ。無党派層を中心としたサイレント・マジョリティの意向をちゃんと汲んでいかないと日本はつぶれてしまいます。もう自民や民主といった次元じゃないんですよ、問題は。


政界再編の必然 予算が暗示する政党政治の破綻

――― そうですね。どっちを見ても代わり映えしません。

江田 自民党は賞味期限切れだし。福田さんが引きずり下ろされて誰がなったって同じです。民主党は今は立派なこと言っているけど、政権取ったらどうなるかわからないぐらいにバラバラだから。今度の選挙で自民・民主も200前後で、合従連衡というか、ガラガラポンしないともう生きていけませんぐらいにしてもらわないとね。政治家の性根っていうのは叩き直らないですよ。
 しかも、そうした中で、自民も民主もひたすら「ばらまき」に走っている。参院選も罪作りだよね。2011年までにプライマリーバランスを黒字化するというのは自民、民主も公約しているのに、それが今危なくなっているわけですよ。国ですから家計みたいに破産することはないんですが、外国が、外国人投資家が、日本の将来をどう見るかはここなんです。プライマリーバランスを黒字化するというのは本当に緩い目標でしかないんですが、緩いタガではあってもしっかりタガが掛かって、野放図なことにはならないということが大事なんですね。そういう意味では、今の日本はタガが外れた日本。今後この日本はどこに浮遊していくのかという疑問が持たれてるんですよ。
 今中国やそれから東南アジア、ベトナムが台頭して来ている中で、歴史の必然として、比較優位に基づく国際水平分業が今後進んでいくのはしょうがない。だから競争力のない部門を温存したって日本の将来はないわけです。昔日本が1ドルブラウスの輸出攻勢で、アメリカの繊維産業をつぶしていったように、日本もその覚悟がいる。そこで、じゃあそれに代わってどういう地場産業を興し、地域振興を図っていくかということが重要になってくるんですが、そこに知恵や新しい発想がないものだから、すぐばらまき。そしてばらまきが終わった途端にまたダメになる。
 そもそも貿易財を扱う産業は、付加価値の低いものから、中国や東南アジアに取って代わられるわけだから、地場産業の振興、創造というと、貿易財じゃない非輸出入財を中心にってなるでしょう。というと、これはもう教育であり、環境であり、医療であり、介護。そういうことなんですよ。介護産業、教育産業、環境産業とかね。そういうものは必ず地域に必要なものだから、地域のニーズに照らして、地場にシーズを見つけて育てていく。それしかありません。農業をしっかり維持していくためには、日本人の嗜好、マーケットのニーズにあった作物をつくる、外国にも品質的な比較優位で輸出できるような製品を作って足腰を強くしていくということが大事ですね。改革路線から見た、しっかりとした地域格差対策とセーフティーネットの構築。こういったものが提示できてないんですよ、自民も民主も。それにしても、独法(独立行政法人)改革は情けない限りですね。まあ、渡辺さんはよくがんばったけれども、見事に官邸からはしごを外された。独法というのは3兆5000億円の税金が投入されていて、役員は3割から4割が官僚の天下り。渡辺さんはそこを斬り込もうとしたんだけれども、結局、たった1500億円の削減だけで終わってしまった。既定路線だった緑資源機構などを含めて6法人だけ廃止・民営化しましたという話でね。3兆5000億のうちの1500億円って5パーセントもいかないでしょう? これは改革じゃなくて「節約」のたぐいですよ、平常時にどの役所もやってる。こんなものを、独立行政法人改革なんて称してること自体が恥ずかしい。渡辺さんがいくら頑張っても、官邸の総理大臣、官房長官がやる気がないからこうなる。霞ヶ関は大臣の顔じゃなくて、みんな総理の顔見てますよ。大臣は短期間でクビになっても、総理はある程度政権を維持しますからね。最終的な官僚の人事権も持っている。その首相に全く気迫がない。それに加えて、町村さんみたいに官僚以上に官僚的な人がいるものだから、官僚にとってこんな心強いことはないわけです。だから官僚は、渡辺大臣が何を言っても、どうせあんなものは票集め、人気集めのパフォーマンスだろう、政治家一流のね、といった感じで。だから官僚は言うこときかないんですよ。

――― 彼自身のパフォーマンスもあって、善戦してるかのような印象でしたが、そんなレベルの話でもないんですね。福田首相と町村官房長官が牛耳る官邸だからこその、この予算なんですね。

江田 そうです。ほったらかしにして、財務省と各省庁と族議員に任せたらこういう予算ができましたという見事な見本ですよ。経済財政諮問会議も全く機能してないし。小泉時代はもう少し官邸主導だったんですがね。良い悪いは別にしても、竹中(平蔵)さんなんかがビシバシ霞ヶ関の尻を叩いてたから。今は全くないですね。完全に官僚に組み敷かれていて官邸には主義主張もない。だから福田政権というかもう今のままの自民党政権が続く限り日本の将来はないですね。とにかくあとの望みは、解散総選挙後の政界再編。そこで族議員に代表されるような旧来の政治と、改革路線を旗印に地域格差やセーフティーネットの問題についてもばらまきじゃない知恵を出す新しい政治、どっちを選ぶのか。そういうところに政党政治を整理整頓していかないことにはね。今のよじれた政党政治、寄り合い所帯化したごちゃ混ぜの政党政治の下では、誰が首相になっても、何にも決まらない。決まってもピリッと山椒が効いた政策じゃなくて、あたりさわりのない、何にも効果のない政策ばっかりが出てくるわけです。
 解散総選挙で、自民も民主もぶっつぶすようなそういう結果を、国民の力で出してほしいですね。そうすれば、10人でも20人でもいいんです、国民本位の旗印を掲げた政治家が核になってどんどん政治が変わっていくと思います。要は自民も民主も過半数取れないという結果を是非有権者の投票行動で出してほしい。今の既成政党から政治を変えていくことはもう無理なんですよ。
 こうした政党内のねじれ、それは自民党や民主党の議員で良心的な人ほど感じていますよ。ものすごい閉塞感がある。テレビに出てきて自分の党の見解と違う意見を平気で言う人がいますが、それはその閉塞感の裏返しなんですね。ただ、そういう人たちに言いたいのは、そんなところで憂さを晴らすくらいなら党を出なさいと。政党人なら政党が決めた以上はそれをバックアップする発言をすべきなんだけれども。とても政党人、組織人のすることではないですよ、と。選挙の時は自民や民主の看板を掲げて多くの組織票をもらって当選しておきながら、選挙が終わったら平気でその党を批判する。そんな人信用できますか。まさに政党政治の破たんそのものじゃないですか、勝手なことを言いたいなら、私みたいにリスクをとって無所属になってから言いなさいと。そして、本当の意味で志を同じくする議員と一緒になって政党をつくればいいじゃないですかと。最初は小さくてもいいんですよ。

――― 政党も組織も破綻しかかってるということですよね。

江田 そうです。思えば90年代の政界再編というのは、言ってみれば人間関係による政界再編だった。端的に言えば「小沢vs反小沢」の政界再編だったんですね。しかし、そんなことを繰り返しても、もう国民の支持は得られませんよ。だから、理念、主義主張で政党を再編していく必要がある。そのためにはやはり有権者の力、すなわち選挙、投票行動の結果で、政治家のお尻に火をつけてもらわなければならない。平時には政治家はリスクをとりません。大部分の政治家は「寄らば大樹の蔭」なんですね、残念なことに。だから、リスクをとって動かなければ次の選挙で落ちる、こういう危機意識を政治家に植え付けてもらいたいんです。そう、変えられるのは「あなた」、国民の皆さんなんですね、本当に。

――― しっかり選ばないといけませんね、次の選挙は。

江田 そうです。その意味でも次の解散総選挙は日本にとって死活的に重要なものになります。

毎日新聞(3/17夕刊) 「いいたい」に記事掲載
ZAITEN 2008年4月号掲載記事