国民一人一人の夢を実現できる社会を実現したい

江田けんじ 衆議院議員 神奈川8区選出(横浜市青葉区・緑区・都筑区)

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どこまでやれる? 脱官僚

2009年10月21日 メディア情報 | 新聞・雑誌 tag: , ,

「SIGHT」2009 AUTUMN号 掲載記事


――― まずは当選おめでとうございます。実は、今回の300の小選挙区のうち、自民・民主両党が立った区でそれ以外の候補者が勝った例は、たった4件しかないんですね。平沼赳夫さんと城内実さん、こちらはいわゆる郵政造反組の元自民党です。あとは、茨城の中村喜四郎さん、こちらも元自民ですね。神奈川8区で勝利された江田さんは、だから中でもとりわけ象徴的な勝利だったかと思うのですが、ご自身としてはいかがですか。
江田 うちの選挙区(横浜市青葉区・緑区)は東京のベッドタウンという色彩の強いところで、そうでなくても民主党が強いところなんですね。そんな中で、私自身も驚くほどの12万8千票もの票をいただいた。投票率が変わらない中で、前回の郵政選挙より4万票伸ばし、民主党候補とは5万4千票の大差をつけてもらった。今回は政権交代が焦点で、そういう意味では僕と民主党候補者は競合していたわけですが、「ぶっちぎり」で勝たせてもらった。前回の郵政民営化が焦点になった選挙でも、自民党候補と同じく賛成で競合していたんですが、勝たせてもらった。この選挙区の有権者はちょっと別格だと思いましたね。要は、猫も杓子も民主党という怒涛のような流れをせきとめてくれた。見識を示してもらったと思っています。大変感謝していますし、この選挙区で政治家をさせていただく幸福感というものも今強く感じています。

――― 今回発足されたみんなの党にしても5議席、本来なら7議席を獲得できたという結果を得ました。このことについてはいかがですか。
江田 これはもう本当に勇気付けられました。というのも、結党から投票日まで3週間しかなかった。しかも、これはいまだに不本意ですが、NHK以外の民放ではテレビ討論の場に出させてもらえなかった。政党の法律要件は、現職の議員が5人または得票率が2%以上というものなのに、今回民放各局は、現職5人かつ得票率2%以上と一方的に各党討論に出る基準を決めてしまった。したがって、われわれのような選挙の洗礼を経ていない新党はテレビ討論の場に参加させてもらえなかったんです。結局ビデオで1分、発言の場を与えられただけ。このテレビの時代に大変不利に扱われたにもかかわらず、300万票もの支持をいただいて、大変励みになりました。
 ただ本来、あと東海と近畿ブロックで2議席獲得可能だったんですが、候補者の得票が小選挙区で一割に満たなかったため、議席を没収されてしまいました。この機会に、投票していただいた有権者の皆さんには心からお詫びを申しあげたいと思います。何分、短期間での結党で候補者選びもままならない、組織票には一切依存していないので「票読み」もできない、という中での不手際で、今後はこのようなことは断じてないようにしたいと思います。
 ただ、みんなの党は、幸い、れっきとした政党になりましたから、これからは、国会での活動はもちろん、テレビ討論などにも出演し各党と議論を戦わせることができます。手前味噌ですが、われわれのマニフェストは、某経済誌をはじめプロの間では高く評価されています。今後も、このマニフェストをもとに、この国のために愚直に正しいと思うことを訴え行動していけば、必ず、国民の皆さんは応えてくれると確信していますね。

――― 政権交代が最大のテーマとなった今回の選挙は、言い換えれば官僚政治の打破が国民の最大関心事でもあったかと思います。そういう意味では、民主党とみんなの党は、共通の旗を掲げていたわけですが、選挙においても選挙後においても、社民党や国民新党などと比べれば具体的な協力体制が見えてこないですよね。実際、江田さんの選挙区にも、直前になって民主党候補が擁立されて、あれあれ?という印象を持ったんですが。
江田 それは民主党側の事情であって、私がうんぬんする話ではありませんが、おそらく、都議選で圧倒的勝利という結果が出て、この勢いだと江田にも勝てる目が出てきたという判断で擁立したということではないでしょうか。昨年秋には、小沢代表(当時)自ら横浜で記者会見して「江田さんも自民党政治を終わらせようと明言しているので、この選挙区での競合は避けたい」と現職の候補者を他の選挙区に移したんですがね。
 ただ、都議選前の六月下旬には、鳩山(由紀夫)代表と菅(直人)代表代行と、渡辺喜美さん、そして私が会談して、その席では特に脱官僚ということではぜひ協力をしてほしいと言われ、もちろんわれわれとしても協力は惜しみませんよということで終わったんですけれども。

――― どうなんでしょう、素人考えですが、民主党から見るとみんなの党の主張はあまりに抜本的、過激すぎるので、敬遠されてしまったといったようなことはないんでしょうか。
江田 いや、そんなことはないと思いますね。脱官僚という点については、民主党と似通っているところもあるので、是非、民主党にはその実現に向け頑張ってほしいと思っていますし、そういう点で民主党から協力を求められれば、いつでもわれわれのノウハウなり経験はちゃんと提供するつもりです。
 ただ、われわれと民主党の一番の違いは、公務員の労組に応援されているかどうかという点です。官公労、自治労――中央、自治体の公務員に選挙でお世話になっているかどうかが、脱官僚、すなわち官僚政治の打破や行政改革、公務員制度改革、税金の無駄遣いの解消等が本当にできるかどうかの本質的な違いだと思っています。端的に言って、公務員の具体的な削減数に踏み込まない、給料カットにも踏み込まない、そんな行政改革はニセモノだと思っています。その点、民主党のマニフェストを読むと見事に抜け落ちているんですよ。民主党は国家公務員の人件費を1.1兆円、2割少しカットすると公約していますが、じゃあ具体的にどう実現するのかが書かれていない。公務員の削減数は書いてないし、給料も本棒のカットは書いてなくて、退職金と手当を減らしますみたいな話しかない。

――― そのあたりはまた後で詳しく聞かせていただくとして、もう少し、この選挙結果についてお伺いしたいのですが、今回の地滑り的な民主党の勝利で、みんなの党がなかなか第三極的な存在感を示しにくい状況にはなったかと思います。そのあたりはいかがですか。
江田 そこはそう単純な話しではなくて、これからの政局の推移をじっくりと見ていかなければならないと思っています。みなさんも指摘しているように、今回の投票結果は自民党政治を終わらせる、自民党に退場をせまるというもので、そのためには、大きな選択肢は民主党しかないから政権交代だ、との国民的判断があったわけです。ただ、各種世論調査でも明らかなように、それじゃあ民主党のマニフェスト、政策を評価しているかというと過半数の人がそうじゃない。高速道路無料化にいたっては、賛成は2割で7割近い人が反対です。だから、これから大変だと思います、民主党政権は。
 よく訊かれるんですが、みんなの党は民主党とどう違うのかと。わかりやすく言えば、ひとつはわれわれは「バラマキはしない民主党」ですと。「バラマキ」ではなく「改革や成長戦略」でこの国の将来に責任をもつ政党ですよと。もうひとつは「公務員労組依存じゃない民主党」ですと。だから、まったくしがらみのない立場から本物の行政改革ができるんですよと、こう答えるんですね。われわれも訴えてきた政権交代は既に実現したわけですから、これからの役割は、こういったふたつの観点から国政の場で、民主党にもしっかりモノを言っていくということだと思っています。みんなの党は、政権交代後の政治をしっかり正していく。民主党には、郵政選挙後の自民党がとった「傲慢な政治」の二の舞はせず、小党の言うことにも謙虚に耳を傾けていくべきだと思いますね。 そして、われわれは、「脱官僚」「地域主権」「生活重視」を旗印に、究極の目標である政界再編に向けて行動していくつもりです。今の、考え方が違う寄り合い所帯化した政党ではなく、政治理念や基本政策で志を同じくする政党政治を実現していく。そうじゃないと、いつまでたっても、同じ党内で政治家同士が互いに足を引っ張り合ってまとまらない、最後は官僚が出てくるという「官僚主導の政治」はなくならないですからね。
 われわれの勝負は来年夏の参院選だと思っています。私の選挙区で有権者が応えてくれたように、この流れを全国に広げていけば、必ずみんなの党は来年の参院選ではもっと躍進できると考えています。そこが正念場ですね。

――― おもしろいのは、おっしゃるように、国民は大枠としては民主党の背中を押したけど、ひとつひとつの政策についてはフリーハンドじゃなくて仔細に見ていくよと、その是々非々を語り始めているんですよね。すごくクレバーになっているんです。
江田 有権者はやっぱり全体としてみれば正当な判断をするんですね。政権交代で国民は溜飲を下げた。ここで一区切りついたわけです。だから一方で、世論調査を見ると、自民党に再生してほしいと思っている国民が7、8割いるわけですよ。

――― それもすごいと思います。
江田 これから国民は、ある程度の猶予期間が過ぎたら、民主党政権に対して厳しい目を向けるでしょう。いろんな点で、国民は不安や懸念を持っているからです。だから、たとえば、民主党政権が少しでも公務員労組に遠慮して行政改革に腰砕けになるようだと、われわれがしっかりとお尻を叩いていかなきゃならんと思っています。

――その脱官僚のことをお伺いしていきたいのですが、官僚側からすると、こうして新しい政権ができ、しかも、自分たちとしっかり対峙すると謳った政権になってしまったわけですが、元通産官僚だった江田さんから見て、当の官僚たちは今、何を考えているものなんですか。
江田 まず基本的に官僚というのは、当面は遠巻きに眺めて、民主党がどういう出方をするのか注視していこうと、そういうことだと思います。いきなり抵抗するというのではなく、いろいろ話は聞いていきましょうと。そして、聞いた上で、彼らは作戦を立てて、面従腹背でいかに民主党を丸め込むか、篭絡するかということで、さまざまな人脈を駆使して仕掛けてくるでしょうね。これまで民主党幹部と繋がりの深かった官僚を中心として組織的に対応していこうと、そんな準備はもう当然進めています。

――― 政権交代はもうずいぶん前から予想されていましたから、霞ヶ関としても対民主党のオプションを考えていたでしょう。実際に結果が出る前から、ある種の擦り寄りのようなものを感じましたか。
江田 もちろんもちろん。官僚というのはそういうことについては目ざといし、当然半年以上前からいろんなシュミレーションをやっているし、そういう意味では準備万端でしょう。ただ実際問題、民主党がどこまで本気で脱官僚をやるか。本当に霞ヶ関全部を対象として断行するのか。それとも、たとえば財務省とは手を組んで、国土交通省や厚生労働省を叩けばいいと思っているのか。それはそれでパフォーマンスとしては国民受けしますからね。霞ヶ関改革の一番の本丸は財務省だけど、そことは裏で手を握って改革を進めるとなったら、それはある意味で小泉改革の二の舞なんですよ。

――― 構図としては同じになりますね。というか、現実問題、そのような取引というか、まさに政治が行われるんではないかという不安はありますが。
江田 これまでの歴史をみても、土光臨調のように「3k(国鉄、健保、コメ)赤字」の解消とか、「増税なき財政再建」とか、自民党政治は財務省(大蔵省)と二人三脚できたわけです。こういう大改革をやろうというときに、財務省と手を握ろうというのは、一番楽なんですね。小泉改革というのは、何も官僚を敵に回したわけじゃなくて、見事なくらい財務官僚主導で、歳出削減という予算のぶった切りをしただけなんです。地方分権と称して三位一体改革で地方交付税を大幅に削減したのもそうだし、三方一両損と称した医療制度改革も財政の帳尻合わせで本当の改革ではなかった。だから失敗したんです。今、心配しているのは、民主党の中から早速、われわれは財務省と手を組んで国交省と厚労省をやるという声が出ていることです。だけど、それをやったら脱官僚依存なんてできません。そうなったら、国民の失望感は計り知れないものになります。

――― そうなったときの政治不信は、これまでの無関心的な不信以上に、決定的なものになると思います。
江田 そうでしょう。そうならないように、民主党にはしっかりやってもらわなければなりません。中途半端な改革では国民はもう騙せないですよ。

――― 民主党は、官僚政治打破のための戦術として、人事と予算をあげています。前者の改革のひとつとして、100人の国会議員を官邸と霞ヶ関に送り込むということを喧伝しているわけですが、これはどう見られますか。
江田 失礼ながら、ボンクラ政治家を100人送り込んだって官僚は屁とも思わないですよ。実際今だって70名近くの国会議員が、大臣から副大臣、政務官といったポジションに送り込まれていますけど、政治主導になっていますか?
 結局、官僚としっかり議論を戦わせて納得させるような政治家がいないということが一番問題なわけですよ。それだけの資質や能力、経験がある政治家が100人行くんなら、それは政治主導になると思います。だけど、申し訳ないけど、民主党の中でも官僚と戦ったことのない、また元官僚であっても5,6年で辞めた経験の浅い人たちが多い。官僚組織というのは、手ごわいし、したたかだし、ずるいし、頭がいいし、見えない落とし穴を掘って政治家を嵌める術にも長けてるし、嵌められたことすら政治家に認識させないような術まで持っているから、要はそれに立ち向かえる資質、能力のある人が政府に入るかどうかなんです。そういう意味では、民主党もわかってますよ。だからこそ、藤井裕久さん(元大蔵官僚)のような人に引退を撤回させたわけですから。
 加えて、制度的な担保が、もちろん、必要です。その点では、どの組織もそうですが、人事と金を握ることが組織管理の要諦です。だから、みんなの党が主張したのは、内閣人事局と内閣予算局を総理のお膝元に持ってきましょうと。そこで人事と金をコントロールしないと官僚は言うことを聞きませんと。ここが肝心なんです。麻生さんがよく官僚は使いこなすものだと言ってましたが、それはその通りで私も賛成ですが、使いこなせる政治家がいないんですよ。当の麻生さんが一番使いこなされてたんですから。

――― そうしてみると、あの膨れ上がった308議席というものには、見栄えほど力がない。
江田 若くて清新というだけで官僚組織と対抗できれば、世話ないですよ(笑)。

――― 予算ということに絡んでくるんでしょうけど、民主党肝いりの国家戦略局というのはいかがですか。
江田 設けるのは良いと思います。ただ、それはあくまでも道具立てで、それを使いこなせる政治家が要るわけです。かっこいい組織はすぐできるんでね。経済財政諮問会議は、かつて私が発案、設計しましたが、それが機能するかどうかはひとえに時の総理や担当大臣がその道具を使いこなせるかどうかなんです。その証拠に、小泉政権の一時は「骨太の方針」とか出して光り輝いた諮問会議も最近はまったく鳴かず飛ばずでしょう?
 ひとえにその道具を使える人、政治家の資質次第なんです。

――― 人事への介入という方法については、どのようにお考えですか。
江田 それはさっきもふれた内閣人事局というものをきちんと働かせるということですよね。幹部人事、つまり、部長、審議官、局長といった人事を、最終的には総理や官房長官の意向で決めていく。たとえば、幹部はいったん辞表を出させて、一般職ではなく特別職公務員という扱いにして、それで再任すればいいんですよ。時の政権の政策をきちんと実行していく、そういう忠誠を誓ってもらえるんなら、再任すればいい。今の日本の雇用の流動性からすると、全部が全部、ポリティカル・アポインティー(政治任用)でやるのは不可能でしょうから。
 ただ、それも民主党は一時はやる気だったのに撤回してしまった。選挙前あたりから、ちょっと腰砕けになってるんですよね。

――― こう言ってしまうとあれですけど、官僚の方が長いんですよね、生息期間が。彼らにはたっぷり時間があるんだけど、一方の議員の方はというと、基本的にはたった数年なんですよね、政治の場にいるのが。だから、官僚が長い時間軸で戦略を練ってくると、政治家は不利になる。
江田 何といっても霞が関は、明治維新に大久保利通が内務省を作って以来、百数十年営々と続いてきた組織ですからね。それだけの組織力というか、ノウハウにはすさまじいものがありますからね。だから、口先で官僚政治を打破すると言っても本当に大変なんです。民主党政権でそのあたりを本当にわかっているのは、菅(直人)さんと小沢(一郎)さんぐらいでしょう。菅さんは実際政権の中で官僚と戦った政治家として、小沢さんは昔、自民党の幹部として官僚と徹底的に付き合った政治家として、それぞれ官僚組織の怖さもしたたかさもよく知っていると思います。それゆえに、どう対峙していくのかと。私も、とにかく官僚を突き放せと言っているんじゃないんです。本当の意味でうまく使いこなさないといけない、コントロールしていかないといけないと思っています。そのためには、やっぱり官僚組織の人脈にも通じている必要がありますし、官僚組織の中にいる改革派を取り込んでいかないと。

――― そういうリアリズムは必要ですよね。
江田 守旧派と改革派はいますから。だから、官僚というものがすべて悪いんじゃない。もともと官僚を志したときには、少しでも国のために役立ちたいと思って入ってくるんですから。だから、そういう人たちをどううまく取り込んでいくかが重要です。もちろん、その中では手練手管も必要になってくるでしょうし。

――― でも、そういったことっていうのは、なかなかマスコミ受けする、大向こう受けする派手さはないことなんですよね。伝わりにくい、地味なことの積み重ねになるわけですから。
江田 そうですね。こういったことは、実際のマネジメントなので、口で説明できない部分もいっぱいあるんですね。おそらく企業の人だってそうでしょう。実際にその組織で人事に触らないとわからないことがたくさんある。その組織の本質というか、正体というのは、やはりある程度長期間その組織に勤めてみて、人事なり組織管理という仕事を多少でもやらないと見えてこない部分がある。そういう意味で、政治家の中で、そういうマネージメントができる人となると大変少ない。相手が官僚組織となるともっと少ない。そもそも難しいんですね。政治家というのは基本的に議員事務所という家内零細企業のオーナーみたいなものですから、大きな組織を預かったこともない。しかも最近だと、大臣を何回も経験した人が総理になるっていうパターンでもなくなった。いきなりポーンとトップに立ったからって、じゃあ、足元の組織を動かせるかといったら、口先では立派なことを言えるけど、できないでしょう。

――― だから、実際の官僚との対峙というのは、そういう目に見えないすごく細かいところから
江田 なだめ、すかし、脅し、おだて、もういろんなことをやらないといけないですね。

――― ただ、そこにはやはり彼らと近くなることで彼らの立場に寄ってしまう危険性もあるわけで。そのあたり、ブレていないかのチェックも必要となってきます。
江田 その通りで、そこにみんなの党の存在意義があるんですよ。われわれは何のしがらみもないですから。
 だから、今後絶対にそういう局面が来ると思いますよ。たとえば、今回連立する社民党の問題があります。私もかつて自社さ政権にいましたからわかるんですが、当時、中央省庁の再編だとか公務員の削減だとかをやっているときに、一番反対してきたのはやっぱり公務員の労働組合だったという、そういう原体験があるんですね。私は当時総理秘書官として総理の横で聞いていたんですけど、農水省のこの組合とこの省の組合は仲が悪いから統廃合するのは絶対に止めてくれとか、くだらないことを言い出すんですよ。
 公務員の首を切るなんてとんでもない。給与カットするのもとんでもない。そう抵抗するのは労働組合です。そういう人たちに選挙のときにお世話になっておきながら、選挙が終わったら、はい、あなたの首を切りますって本当に言えるのかと。言ってほしいですよ、民主党には。でも、言うっていうことは、人の道に反することをやらなきゃいけないわけですよ。どんな職業だろうがどんな人生だろうが、お世話になった人、恩義のある人を切って捨てるようなことをしなけれりゃいけないわけですから。だから、少なくとも脱官僚政治を唱えるのなら、民主党は、まず最初に少なくとも公務員の労働組合には応援されないという毅然とした態度を示すべきだったんです。そこに民主党の限界があるんですよ。

――― そこに民主党のダブル・スタンダードがありますよね。そこでリミッターがかかるのか、かからないのか。
江田 だから、マニフェストに書いてないんですよ。あまり指摘されていないけど、どこを読んでも公務員の削減数は書いていないし、給料の本棒の何割を削減するとも書いていない。書いていないのに、公務員の人件費は1.1兆円減らしますって、そこに踏み込まないかぎり、できるわけがないんですよ。

――― 民主党を躍進させた最大のテーマに、すでに民主党のアキレス腱が露呈しているということですね。
江田 だけど、やるって言うんだからやってほしいですよ。5兆円のうち1.1兆円を削るというんだから。民主党の財源論の信憑性が問われるっていうのは、実はこういうところにもあるんです。

――― 民主党が最初にコケるとしたら、このテーマは要注意ですね。
江田 今回の選挙は、自民党政治、官僚政治を終わらせてくれよという大きなうねりだったわけです。要は、官僚の天下り、利権、そこには政治家の利権も含まれるんだけれど、そこにもうブラックホールみたいに税金が吸い取られて、国民だけがやせ細っているというのが今の日本の現状でしょう。自民党政治を終わらせたいというのは、まさにこの官僚との長年にわたる馴れ合い、持ちつ持たれつの利権政治、政官業の癒着、こういったものを断ち切ってくれというのが、この政権交代の意味なんであって、政権交代したはいいけれど、相変わらず公務員の利権とは一緒にやっていきますみたいな話だと、一気に萎んでしまうでしょう。だから、そうならないようにしっかりと監視していかなきゃならない。そして、民主党が本気でそこにメスを入れようとするなら、われわれに協力を求めてくる場面が絶対にあると思います。本気じゃなかったら、求めてこないでしょう。

――― 国民の方も、こうして実際に政権交代を起こしてみて、目覚めた部分もあると思うんですね。実際に政権は選べるんだという実感は、今後の政権がどういう結果を出してくれるのか、そのハードルをシビアにすると思うんです。これまでは、納得しようがしまいが、そこには自民党しかなかったのが、次からは選べるわけですから。
江田 民主党はこの年末までに、ある程度の答えを出していかないと一気に失速すると思いますよ。逆に言えば、この年末までが勝負です。

――― この選挙結果であまり誰も言わなくなっているんですが、民主党がぐらついて、自民党もちりじりになってくると、政界再編ということも浮上してくるわけですが。
江田 もちろん。そこでひとつのファクターとなってくるのは、自民党がどうなるかでしょう。自民党は再生するのか、それとも、今回しぶとく生き残ってきたロートルの守旧派政治家が引き続き差配していくのか。

――― だから、壊滅的後退なんだけど、中途半端な感じではあるんですよね。
江田 相変わらず旧態依然としたロートル政治家が裏で操るような自民党になるのか、それとも改革派が分裂に向かうのか。自民党は解党的出直しって言ってますけど、解党的じゃなくて、解党しないと私は再生しないと思ってます。もっと言えば、自由民主党という名前も変えなきゃならない。手垢のついた自由民主党という名前では、なかなか国民の信頼は取り戻せないんじゃないかと思いますね。

――― 世論調査でも実に多くの国民が自民党に再生してほしいと期待しています。素晴らしい野党になってほしいと思っているわけなんですよね。
江田 もう本当に清新な若い人が出てこないと駄目でしょうね。院政をしいてきたような人たちとは決別しないと。それができるかどうかですよ。そういう意味で、ぜひ改革派の方々には頑張ってもらいたいけど、あとは、この政界再編でいうと、小沢ファクターというのがあるでしょうね。

――― そうですね。
江田 あの百数十名を超える小沢チルドレンを生んだ小沢一郎という政治家がどっちを向いて政治をやるのかで、民主党政権の帰趨も決まるし、日本の政治の将来も決まると。だから、政界再編の可能性もその規模も、小沢一郎という政治家次第とも言えるでしょうね。
 かつての細川政権がなぜ短命に終わったか、その理由についてはすでに公にされていますが、当時、国民福祉税7%というものが突如として出てきた。あれは、小沢さんと大蔵省、通産省の事務次官の連携プレーです。当時、私も通産省の若手官僚としてその下にいました。とにかくあの政策を細川総理に発表の数時間前にせまって会見させた。「7%はどういう数字か」と記者に訊かれて「腰ダメの数字」と細川さんは答えた。それで結局短命に終わったわけですが、だから、また小沢さんが霞ヶ関と手を組んでやっていこうとするのか、特に財務省ですね、それとも、本当の意味で官僚政治を打破していくのか、小沢さんがどっちの方向を向いて政治をしていくのかということは、極めて大きなファクターですね。

――― 官僚政治の打破を、どんな方法論で行うかという。
江田 その点、財務省を改革の対象からはずしたら、官僚政治の打破は絶対無理ですよ。官僚支配というのは、何のことはない、財務省支配なんですから。もしそういうことになったらエセ改革でしかない。早速、財務省は小沢さんが官房副長官時代の秘書官(現総括審議官)を窓口にして民主党対策を練っているようです。

――― とはいえ、われわれ国民は、もうその政治家がどういう背景を持っているか、どういうヒモがついているか、つまり、どこにアキレス腱があるかで判断することを覚えてきましたからね。何を語ってくれるかももちろん大事だし、それがないとそもそも駄目なんですが、どんな限界があるのかということも見ていくわけですから、本当にその政治家がどこに立っているかは重要になってきますね。
江田 その通りで、もうみなさん、政治家の正体は見破っていますよ。その政治家が国民のためにどういうリスクを取っているか。手前味噌ですが、今回の神奈川8区の投票行動は、そのことを理解していただけた結果だと思っているんです。

「内閣法制局よ、お前は何者なのだ」
業界・労組に依存せず二ケタの議席目指す