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官邸の危機管理シミュレーション(上)・・・第二次北朝鮮核危機

2006年10月23日  tag:

 北朝鮮の核実験と国連の制裁決議を受けて、今、官邸では様々な危機管理シミュレーションが行われているはずだ。まさに国家のトップシークレットに属する事項ではあるが、橋本政権時の検討成果が、その土台となっていることだけは確かだ。

 そもそも、今、議論の焦点となっている周辺事態法及びその関連法である船舶検査法は、橋本政権時に策定されたものである。さらに言えば、その前提となった新しい「日米防衛協力の指針(新ガイドライン)」や「ACSA(日米物品役務協力協定)」も、さかのぼれば、橋本・クリントン会談(96年4月)で発出された「新日米安保宣言」に端を発している。これら一連の指針や法整備等に、私は、首相秘書官として主体的に参画してきた。

 最初の契機は、93年~94年にかけて起こった第一次北朝鮮核危機だった。細川・クリントン会談で「北朝鮮の核開発は本物」という情報がもたらされ、その後、米国は海上封鎖、さらには核施設へのピンポイント攻撃までも検討の俎上にのせた。これに対し、北朝鮮は「宣戦布告とみなし、物理的対抗措置をとる」と宣言し、極めて緊迫した事態となったのである。幸い数ヶ月後に、カーター特使の訪朝により事態は収拾された(ジュネーブ合意・注1)が、この時、日本は初めて朝鮮有事を現実の問題としてとらえ、あらゆる事態を想定した危機管理の検討に着手したのである。

 当時、危機管理チームの中心人物だった石原信雄官房副長官によれば、「海上封鎖時の米艦船に対する協力(燃料補給や民間港湾・空港使用)」「大量難民の受入態勢」「原発等へのテロ対応」等が検討対象だった。しかし不幸なことに、この時、日本の政局は混迷していた。丁度、政権交代の狭間に当たり、細川・羽田政権という脆弱な短期・多党連立政権から社会党首班政権へとバトンタッチされる最中での出来事だったのである。このため、せっかく始めたこの危機管理シミュレーションも途中頓挫を余儀なくされた。

 それをもう一度、政権のアジェンダに載せたのが、久々の自民党本格政権といわれた橋本政権だった。橋本氏は、第一次北朝鮮核危機の時に、野党でありながら政調会長として官邸の相談にあずかり、強烈な問題意識を有していた。それが、政権発足直後に起こった「中台危機」(96年3月・注2)で倍加され、その後、首相主導で「新日米安保宣言」「新ガイドライン」「周辺事態法」の策定へと突き進んだ原動力となったのである。

 ただ、当初は愕然としたものだ。当時官邸には、こうした事態に対処するための危機管理のベースとなるものが一切なかったのである。それは、村山内閣時の阪神淡路大震災の初動のまずさを思い起こしても容易に想像できるだろう。今でも鮮明に記憶しているが、中台危機を受けて官邸に呼び込んだ内閣安全保障室長は、台湾から邦人を救出する場合の、政府専用機(ジャンボ機)が着陸できる空港すら把握していなかった。安保室の体制も防衛庁や警察庁等からの文民だけで構成され、実際にオペレーションに従事すべき制服組(自衛隊員)の知識やノウハウがまったく活かされていなかったのである。

 こうした「ゼロからのスタート」から、あらゆるケース毎にあり得べき事態を想定し、日米安保体制下における日米協力のあり方も含めて精査をしたのである。その成果は脈々と官邸の中で受け継がれてきた。ただ、その内容は、残念ながら、今、私がここで明らかにすることはできない。

 このシミュレーションの最大の意義は、より現実的な危機を、我が国への直接の武力行使(この場合には旧日米ガイドラインがそれなりにあった)よりも「周辺事態」にあると明確にとらえたことだ。そして、日米安保条約第6条により「極東の平和と安全」のために米軍が出動する場合であって、我が国にも危害が及ぶ可能性のある事態への対処については、単なる基地提供(使用)だけでなく、「後方地域支援」ができるスキームが作られた。それが、今の周辺事態法に結実したのである(続きは次号)。

(注1)ジュネーブ合意(94年10月)
 北朝鮮が黒鉛減速炉等の核施設を凍結し究極的には解体する見返りに、米国等は軽水炉(200キロワット相当)を提供する事業を開始し、その完成までの間、毎年50万トンの重油を供給すること等を内容とする米朝合意。

(注2)中台危機(96年3月)
 台湾の独立機運を懸念した中国が、それを牽制するために、演習と称して台湾海峡にミサイルを撃ち込んだ事件。これに対し米国は急遽、空母二隻を派遣し中国を威圧した。

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