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江田けんじ 衆議院議員 神奈川8区選出(横浜市青葉区・緑区・都筑区)

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『後期高齢者医療制度』・・・『長寿医療』か『姥捨て山』か?

2008年5月26日  tag: ,

 政治は「情と理」である、と言った政治家が昔いたそうだ。官僚は、頭だけで理屈をこねていればそれで良いかも知れないが、政治家は民意をくみ上げるのが仕事である以上、国民の情、喜怒哀楽も十分斟酌して政治を行うべきだ。

 ある意味、それはその通りであろう。まさに「後期高齢者医療制度」は、この「情と理」に複雑にからまる問題となった。

 まず、「年金から天引き」がお年寄りの琴線にふれた。「消えた年金」問題が収束しないのに、保険料だけは有無を言わさず徴収される。雀の涙のようなお金でかつかつの生活をしているお年寄りにとって、年金は請求しないとくれないのに、半年前から社会保険事務所に「消えた年金」を何とかしろと言ってもウンともスンとも言ってこないのに、医療保険料だけは自動的に「天引き」だ。しかもそれを「厚生労働省」という同じ役所がやっている!

 「家族の絆」を切り裂くという批判にも根強いものがある。これまで一生懸命働いてきて、やっと息子夫婦、娘夫婦の下で楽に暮らせると思ったら、途端にこの4月から、これまでタダだった保険料をいきなり払えと言われる。資力がないから子供の世話になっているのに一体どういうつもりか!

 子供だって親孝行のつもりで親の面倒ぐらいは見ようと思ったのに、その気持ちも半分水を差される。まだ働いている夫(後期高齢者)の妻(扶養者)の保険料も新たに徴収されることになり、「親子の絆」「夫婦の絆」がこれで裂かれてしまう。

 それぞれもっともな批判だが、肝心の旧「老人保健制度」と今回の新制度で負担の増減はどうなっているか。これが市町村で補助金を出していたか否か等で千差万別で、一概には言えないらしい。それを制度発足当初「7~8割は負担減」などと厚生労働省が言うものだから、また「我々をだましたな」ということにもなった。元々、この厚生労働省への信頼は年金問題で地に落ちている。

 お年寄りの負担増減は、今、厚生労働省が調査中なので、来月上旬には概要が発表されるだろうから、私は、質問主意書で現役世代の負担増減を訊いてみた。その結果は (1) 国民健康保険(自営業、無職等) 約5378億円の減、 (2) 共済組合(公務員) 約162億円の増、 (3) 政府管掌健康保険(中小企業の従業員) 約2911億円の減、 (4) 健康保険組合(大企業の従業員) 約940億円の増 この制度改正が、財政が厳しい(1)国保を、大企業のサラリーマンの負担増(4)で救おうという趣旨であることがわかる。今後は、お年寄りだけでなく、サラリーマンも憤慨することになるのだろうか。政府は「お年寄りにも応分の負担をお願いして、若者の負担が加重にならないようするため」と制度改正の趣旨を説明しているのだから。ただ、中小企業のサラリーマンは確かに負担減となる。

  ちなみに、大企業の健保連によると、平成20年度予算の赤字総額が前年度予算比で3924億円増え、過去最大の6322億円になるという。また、赤字組合が全体の9割の1334組合となり、すでに141組合が保険料を引き上げたという。健保連は、赤字分の穴埋めには平均0.8%の料率アップが必要で、平均保険料率は政府管掌健康保険並みの8.2%程度になるとの見通しを示している。

 しかし、このような健保組合の赤字財政にもかかわらず、政府が今国会に提出している健康保険特例措置法案では、政府管掌健康保険の国庫負担を健保組合に肩代わり(750億円)させることになっている。まさに新制度により、高齢者だけではなく、サラリーマン世帯にも新たな負担を強いる可能性が大であることが明らかになっているのだ。

 世界一の少子高齢社会の日本で、医療費は今後、天文学的に増えていく。この負担増を誰かが負わなければならないことは必定だ。だったら、どういうやり方が一番公平なのか。

 一点確かなことは、病気にかかりやすいリスクの高い人(後期高齢者)ばかりを集めて「保険」もへったくれもないだろう。リスクの低い人も一緒にいてはじめて保険は成り立つ。そうなら、将来的な保険の一元化は一元化として、まず、それぞれの保険毎に、お年寄りも含めた保険制度を設計し、その上で、年齢ではなく所得比例で保険料を設定するというのも一案だろう。トヨタの人は退職してもトヨタの健保で面倒をみるのだ。ただ、トヨタは良いが、自営業や中小企業の保険では、保険料だけでは赤字となるので税で一部負担せざるをえないだろう。

 政府案のように、後期高齢者ばかりを一つにまとめて制度を作るなら、もはや保険ではなく「保障」だろうから、原則「税」で財源は賄うべきだろう。もちろん、現役並み所得のあるお年寄りには一定の負担(所得税か保険料でとる二つの方法あり)はお願いする。

 野党は、この「後期高齢者医療制度」について、今国会に廃止法案を出した。それ自体は理解できるが、しかし、その後のビジョンがない。是非、野党、特に民主党の老人医療制度改革案なるものを聞かせてもらいたいものだ。単に廃止では、これまた無責任野党との批判は免れないだろう。

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