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江田けんじ 衆議院議員 神奈川8区選出(横浜市青葉区・緑区・都筑区)

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『カラ威張りならぬカラ冷静?』・・・北朝鮮ミサイル連射

2006年7月10日  tag:

 北朝鮮がミサイルを連射した。相手の挑発に乗ってあわてふためくのは愚の骨頂で、少なくとも「表向き」は「冷静さ」を装うことが外交的にも賢い対応だろう。しかし、その「冷静さ」は、米国のように、あくまでも万全の即応体制に裏打ちされてこそ成り立つ。そうでない「冷静さ」は、「カラ威張り」ならぬ「カラ冷静」でしかない。

 その点、ここ数日間のマスコミ報道をみていると、日本の対岸に、何をしでかすかわからない「ならず者国家」が存在し、しかも常時、200発ものミサイルが、我が国に向けて照準をあわせているという現状、状況への認識が甘すぎるように思える。

 例えば、ある軍事評論家などは「たとえノドンが日本に着弾しても大した被害はない」とし、湾岸戦争の時、イラクがイスラエルにスカッドミサイルを打ち込んだが「死者はたった二人でそれも心臓麻痺」「イスラエル国民は極めて冷静だった」と言ってのけた。別の学者は、何を根拠にか「もう発射はない」と言い切った。このような発言を公共の電波にのせるTV局の見識も問われる(付論参照)。

 決定的なのは、今の日本にはミサイル迎撃能力がないということだ。米軍が保有するSM3(迎撃ミサイル)搭載イージス艦が日本海に展開してくれれば、あるいは何発かのミサイルを撃ち落としてくれるかもしれない。が、これまでの迎撃実験からもそれは確かではない。ましてや、PAC3という迎撃ミサイルの地上配備も、米軍、自衛隊ともこれからの計画段階だ。すなわち、現在のところ、弾道ミサイル攻撃を仕掛けられても国民の生命・財産を守る手立てはないのである。

 ミサイル発射への監視・追跡機能については、米軍やその偵察衛星、イージス艦、自衛隊の持つ機能をあわせれば、それなりのものはあるだろう。ただそれも、この「情報収集・分析機能がうまく働いているのだろう」「政府なんだからちゃんとやっているだろう」というある種の楽観論、淡い期待感という脆弱な基盤の上に立っていることを認識すべきだ。我々が今何となく日常の平静さを保っているのもこれによる。

 しかし、官邸勤務の長い私のような人間には、その機能、能力というものが「信頼のレベル」に達していないことが、残念ながら分かっている。

 だからこそ、外交的努力を積み重ねなければならないのだ。その際、日本に外交カードは何枚もあった方が良い。経済制裁の発動も、相手の出方に応じ、臨機応変に今後ステージアップしていけばいい。一挙に切るのはそれこそ愚の骨頂だ。その意味で、第一弾を「万景峰号の入港禁止」程度に止めたのは賢明だった。とりあえず「やるぞ」という毅然としたメッセージを送ればいい。

 本件はこれから続く「長い芝居」の序幕にすぎない。着地点を見すえて、相手方の出方を見ながら日本独自の制裁カードを適宜適切に切っていく、並行して、国連安保理をはじめとした国際的包囲網の形成を背景に、北朝鮮を交渉のテーブルにつけ、今度こそ、北朝鮮の足元をみて、核・ミサイル等の大量破壊兵器の廃棄、拉致問題等で毅然とした対応をしていくのだ。

 ただし、相手は我々の合理性の基準では図れない「ならず者国家」だ。独裁国家が追いつめられて「窮鼠猫を噛む」的な暴発をしたケースは歴史上いくつもある。最悪の事態を想定して対処することが危機管理の要諦であることを常に念頭に置いておく必要がある。

 したがって、一方で、暴発による破滅的事態を回避しつつ、国際場裡・合意の中で、核・ミサイル等の我が国への脅威をなくしていくという「絶妙なコントロール外交」が、今回求められているのだ。まさに小泉外交試練の時、その真贋が問われている。

(付論)ある軍事評論家の発言について

 今回の事態を受け、いくつかのテレビ番組に出演した軍事評論家が「たとえノドンが日本に着弾しても大した被害はない」「堅牢な建物や地下に逃げ込めばいい」とし、湾岸戦争時のイラクによる対イスラエル・スカッドミサイル攻撃を例に出して、着弾しても「死者はたった二人でそれも心臓麻痺だった」「イスラエル国民は極めて冷静だった」と発言した。

 この評論家の評論家たる所以を私は知らないが、少なくとも政権の中枢や外務省、防衛庁での危機管理オペレーション等の実務経験がないことだけは確かであろう。このような人間の問題発言を、公共の電波にのせるTV放送局の見識も同時に問われる。事ほど左様に、軍事オタクはいても軍事の戦略・戦術家はおらず、北朝鮮のことを本当にわかる学者や評論家もいない。

 湾岸戦争時、私は官邸、石原信雄官房副長官の下にいた。イスラエルがミサイル攻撃を受けイラクへの報復を自制したのは、戦争の構図を「アラブ世界の領土紛争」からフセインが企図した「アラブ対イスラエル」に変えないよう、当時、必死で米国が説得し、その代わり米国が、早期警戒システムの導入やパトリオット迎撃ミサイルを配備したからにほかならない。また、イスラエル国民は、常に戦争の危機に備え、日頃から地下大型シェルターや国民皆兵・民間防衛システムもあわせ持ち、これまで「平和ボケ」してきた日本国民とは、準備、心構え、覚悟の上で根本的に異なる。

 そういったイスラエル国民でさえ、6週間、18回、39発のミサイル攻撃の度に恐怖におののき、シェルターにガスマスクをつけ逃げ込まざるをえなかった。戦後、後遺症・精神障害にも大勢が悩まされた。

 ミサイル直撃による死者は2名、負傷者は226名を数えた。確かに心臓麻痺で亡くなった人もいたが、2名ではなく5名で、7名がガスマスクの取扱いミスで死亡した。6142軒の平屋、1302棟のビルディング、23箇所の公共施設、200個の商店、50台の私有車両が損害を被った。

 指摘された事実関係が間違っているばかりではなく、こうした事態を「大したことではない」と言ってのける評論家に憤りを禁じ得ない。

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