江田けんじ 衆議院議員 神奈川8区選出(横浜市青葉区・緑区・都筑区)

　六者協議が合意した。今時点の外交努力としては評価したい。核完全放棄までの道筋は確かに不明確だが、だからと言って交渉事。あの北朝鮮を相手に「すべて一度に」という方が無理な相談だ。これで当面は、北朝鮮のミサイル発射や核実験の危険だけは遠のいた。

　契約で言えば、書面を作ってダウンペイメント（頭金）を打ったというところか。単なる口約束（契約）でもなければ、将来の核放棄（契約の完全履行）が保証されたわけでもない。しかし、少なくとも、頭金（寧辺核施設の閉鎖・封印と5万トンの重油）という裏打ちは最低限できた。

　ただ、これまでの経緯から「北朝鮮は信じられない」という人も多いだろう。私もその一人だが、だからといって何もしないわけにはいかない。あとは執拗な外交努力で、時には制裁で北朝鮮の尻を叩きながら、段階的に核放棄までもっていくしかない。それが外交手腕というものだ。

　「100万トンの重油は夢のような話」と今回の合意を批判する、いつもながらピントはずれの北朝鮮専門家のコメントもある。確かにいきなり100万トン支援ならそうだが、第一段階は、たったの「5万トン」の重油であり、前回の枠組み合意（94年）の1/10の数量でしかない。北朝鮮の年間需要100万トンのたった5％分だ。

　その頭金で、寧辺の核施設を、前回のように凍結（Freeze）ではなく、「閉鎖・封印（Shutdown&Seal）」までもっていったことは前進である。「封印」は査察官立ち会いの下に行われ、その後のメインテナンスも行われないため、将来の再稼働も難しくなる。この点が「凍結」に止まり、その後再稼働した前回と異なる点だ。

　ただ、問題は第二段階だ。北朝鮮が「全ての核施設を申告し無能力化（Disable）する」ことと引き換えに、95万トンの重油を支援する。「全ての核施設」とは何かの「一覧表」は今後六者で協議され、「無能力化」の定義も不明確だから、まだまだ先行き不透明だ。我々の立場からは、当然、既存の核兵器やプルトニウム、ウラン濃縮施設等が含まれなければならない。

　そこまでの道のりは遠いし、そこまでいくかどうかも分からない。しかし、本当にそこまで進むのであれば、95万トンの重油など安いものだ。そして、その場合には、仮に拉致問題が進展していなくても、日本も応分の協力をせざるを得なくなるだろう。今の時点では、拉致問題が解決しない限り、日本はエネルギー支援はしないと言うしかないが、この段階でもそれを通せば、六者協議の枠組みを日本が壊すことになるし、拉致問題の解決にも各国の協力が不可欠である以上、それはやむを得ない選択だ。

　だとすれば、拉致問題は確かに厳しくなる。米国も、北朝鮮のテロ支援国家指定解除に向けて動くというし、今は、日本の拉致問題が進捗しなければ解除しないと言っている米国だが、現実に核放棄プロセスが進んでいけば、米国も拉致を置き去りに手続きを進めていく可能性の方が高いだろう。

　もはや拉致問題は、今回設けられた日朝正常化交渉のための作業部会で結果を出していくしかない。そうでないと、安倍政権は厳しい局面に立たされることとなる。